労山自然保護憲章

登山者だからできる自然保護


いま、地球温暖化による異常気象や、工業化・自動車の排気ガスによる大気汚染、オ

ゾン層破壊による紫外線問題が、山や自然を大きくおびやかしています。

いつも山の自然にふれている登山者は、植生や開花期の変化、樹木の立ち枯れ、積

雪や降水量の偏り、樹氷の変化などを知ることができます。山奥の道路やダム工事

が自然を傷付けていないかなども、都会に住んでいる人たちには中々分かりません。

こうした自然の変化を知らして行くことは、登山者だからできる大きな役割です。

これから、私たちは登山をしながら、山の自然の変化を定期的に調査、記録し、科学

的なデータを提供することが重要な活動になります。登山者の特徴を活かし、山と自

然を守る活動に参加しましょう。


「自然を傷つけない登山」の普及

登山は自然と親しむスポーツです。それは同時に自然に負担を掛ける事でもあります。

登山の権利と、山の自然保護とは表裏一体の関係にあります。

自然には、復元力がありますから、その範囲内で自然と親しむことが重要なのです。

そのために、山の自然を傷つけない(ローインパクト)な登山技術を、研究・開発・普及

することが必要です。

それは、歩き方、装備、キャンプ、トイレ、登山道整備、パーティ編成、自然の見方、

自然保護の考え方の徹底などです。

山を傷つけない登山技術に関連する情報を集め、交流し、全国の進んだ経験を教育

活動などを通じて広めることが必要です。これらのことは山菜採り、渓流釣りにも応用

できるでしょう。

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オーバーユース(過剰利用)の一因に「集団登山」があります。特に特定の山やコース

に、一度に大人数の登山が繰り返されることで、ゴミや糞尿、登山道の踏み荒らしな

ど、自然を傷つけた例はたくさんあります。

集団登山の背後には、「山に登りたい」という要求が広くあり、「チャンスがない」という

人々がたくさんいます。

私たちは、バスハイクや公開登山でこうした要求を実現し、会員を増やし、登山の楽し

さや自然保護の大切さを知らせ、マナーを向上させてきました。

集団登山の問題点を、会員の教育、リーダーの養成、特定のコースにかたよらない山

行、小グループ分け、自然観察や保護の活動など、いろいろな方法で克服しましょう。

大勢の仲間と共に山の自然を傷つけない、楽しく安全な登山が続けられるように努力

しましょう。 

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いま、大規模林道やダムなど開発計画の見直しや、リゾート施設の撤退が各地で見ら

れます。

「自然を守れ。ムダな開発はやめよ」との自然保護の世論のたかまりもありますが、予

算の削減や不景気などが原因です。

条例が戻れば再び動き出す危険があります。

実際に、ダムや砂防堤防、高速道、新幹線などの計画は貴重な自然を壊しながら、

今も進んでいます。

「百名山」や自然遺産への観光客誘導もさかんで、特定の山域の自然が傷つけられ

つづけています。

開発にしろ撤退にしろ、行政や企業は自然を守る上で、十分に責任を果たしていませ

ん。

私たちは、自然を傷つける「開発」に反対の立場を貫いてきました。


これからも、山の自然と共存する登山者として、開発の動きに注目し、問題があれば

発言をしていきましょう。

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労山は30年前から、だれでもどこでも実践できる自然保護活動として、クリーンハイク

(清掃登山)に取り組んできました。

今では、登山道のゴミは本当に少なくなりました。

しかし、登山口や林道でのポイ捨てや、家電・産業廃棄物などの不法投棄がふえてい

ます。

クリーンハイクが成果を上げたのは「実践を通じてモラルに訴える」ことにあり、登山

者の自然保護に対する意識の向上に役立ちました。

今では、ゴミ拾いだけではなく、水質、土壌、大気の調査や、植生など生態系の観察・

調査など多様な活動に広がっています。

これからも山からゴミをなくす活動をすすめ、多面的な自然保護活動や地球環境問題

に取り組んでいきましょう。


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排泄物の処理問題は、オーバーユース(過剰利用)の中でも深刻な問題です。

山のトイレ対策では各地方連盟でも、糞尿の担ぎおろしや携帯トイレの普及など、さま

ざまに努力されています。

トイレの技術改良もすすみ、分水処理のトイレや、微生物の分解作用を応用したバイ

オトイレが一部では実用化されています。

しかしバイオトイレは高地、低温では効果が乏しく、水や電気の供給等の問題があり、

普及にはいたっていません。

携帯トイレも使用、携行、処理に問題があり、登山者の感情も含めて万能ではありま

せん。

山のトイレは自然の復元力を越えないように処理、処分する必要があり、それぞれの

山域の実情に合った処理方法を作り上げましょう。

当面、登山者のマナーとして”落とし紙”は持ち帰りましょう。

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クリーンハイク(清掃登山)のとりくみは、各地で「うちの会の山」「ふるさとの山」ともい

える山域を生みだし、それらの山に愛着を抱く会、地方連盟が増えてきました。

清掃や自然観察のフィールドとしたり、登山道整備に汗を流す会・クラブもあります。

一方、山麓の農山村では過疎化や高齢化がすすむ中で、貧弱な農林政策に苦しみな

がらも、生活と自然を守って暮らす人たちがいます。

しかし、登山者の多くは、時間や費用が乏しいことから山麓を急ぎ足で通過し、「百名

山」ブームは特定の山やルートに登山者が集中するだけです。

登山者と山麓の人たちとの交流はほとんど無く、このままでは登山文化を育むことが

できなくなります。

登山者は自分の好きな山、「心のふるさとの山」を持つと共に、山麓の人たちの生活

や文化にふれて交流を深めましょう。

その人達とともに山の自然を守りながら、登山を楽しむ工夫をしましょう。


労山自然保護憲章

登山は多様で豊かなフィールドとするスポーツです。

自然を守りながら楽しく安全な登山を普及するためには、登山道、山小屋、トイレ、キ

ャンプ場などの整備や管理が必要です。

それには、自然を傷つけないように必要最小限で進めることが求められています。

オーバーユース(過剰利用)による登山道の踏み荒らしを防ぐには、湿地の木道化や

急坂の階段化などが必要ですが、一方で過剰な整備が自然を傷つけ、景観を損ない

観光地化につながる例も見られます。

整備や管理の責任がどこにあるのかあいまいな山域もあります。

こうした施設の整備や管理は、自然を傷つけない立場から、地元住民や行政、登山

者、所有者がよく話し合って納得のもとに改善を図っていきましょう。


労山自然保護憲章

いま、国立公園の見直し・再編成が検討されていますが、受益者負担(入山料)の導

入も含まれています。

お寺の境内の山、管理組合のある渓流などに入山料を払う例は各地に多く見られま

す。

私たちが問題とするのは、公共の場所である国有林、自然公園など多くの住民や登

山者の利用する山域での「入山規制」であり「入山料」です。

入山規制は自然と共存してきた住民の生活や、登山の権利を脅かすことになります。

労山はこれまで、納得できる理由のない入山料、入山規制に反対してきました。

山の自然を守るための地域指定や立ち入り調整の必要な山域もあります。自然保護

の責任や導入目的の明らかな入山料に反対ではありません。その検討に当たって

は、地元住民や行政、登山者、所有者などの話し合いとなっとくを求めていきましょ

う。


労山自然保護憲章

山の自然を守ることは、「自然を傷つけている原因を明らかにし、これを取り除き、こ 

われた自然を復元すること」です。

このためには、地元住民や行政、登山者、所有者などが、それぞれの役割を明らか

にして、対等の立場で協力し合うことが必要です。

特に自然の管理に責任を負っている行政は、最大限その責任を果たすべきです。

自然の管理を委託やボランティアに任せきりにするすすめ方は好ましくありません。

自然公園法にある「自然の管理」を優先する立場から、地元住民や行政、登山者、所

有者などの真の協同(パートナーシップ)を求めて積極的にかかわっていきましょう。

この憲章が、登山団体、自然保護団体、研究者など幅広い人たちによる山の自然を

守る共同の輪がさらに広がることに寄与できるよう、会員の皆さんの理解と地方、地

域、山域での具体化を期待します。

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